菊池襖紙工場さん工場見学

2023年9月、菊池襖紙工場さんからご招待をいただき、工場見学をさせていただきました。今回はその模様を簡単にご紹介します。

菊池襖紙工場さんについて

菊池襖紙工場さんは、襖紙生産の中でも主に印刷を担っておられる事業者さんです。菊池襖紙工場さんが柄をデザイン・印刷した襖紙はブランドメーカーの見本帳へととりまとめられ、代理店や施工者を通じ、お客様のお宅の襖へ張られます。私たち東大襖クラブの取り扱う襖紙の中にももちろん、菊池襖紙工場さんの印刷した製品がたくさん含まれています。

見学の模様

今回は埼玉県草加市にある本社工場の見学にご招待をいただきました。

一般の方の工場見学については2023年9月現在「ご案内準備中」とのことです。

過去の見本帳の観覧

事業の概要などのレクチャーをいただいたのち、まずは菊池襖紙工場さんで保管しておられる過去の見本帳を見せていただきました。見本帳となると部員も非常に盛り上がり、ざっくばらんに話しながら様々なことを教えていただきました。その内容を少しだけご紹介します。

東大襖クラブでも取り扱いのある「ごりん」という見本帳を川庄襖紙さん(ブランドメーカー)が出しておられます。その過去の版の見本帳を見せていただくと「五輪」という漢字表記。もともとは1964年の東京オリンピックにあやかった見本帳だったのだと、筆者は初めて知りました。

ほかにも、印刷技法のお話(今は継承している職人がいない技術についてなど)や、過去に流行っていた模様などのお話も伺いました。例えば過去には、壺柄は縁起が良いとされ、写真のような柄の襖紙が流行ったこともあったとのこと。みなさんの家にも使われている/使われていたのではないでしょうか。

デザイン・製版工程の見学

ここからは生産工程の見学に移ります。菊池襖紙工場さんでの襖紙の生産は、柄のデザインから始まります。実際に製品として出すデザインに至るまでいくつも版を重ねるとのことで、見学当日に見せていただいたとても華やかで良い(と筆者が感じた)柄も、さらに修正を重ねるとのことでありました。また、より根本的なデザインのお話として、「最近は総柄(襖紙の全体に模様が入っているもの)が好まれるけれども、和室に座して眺めるのが襖の見られ方である以上、やはり伝統的に腰柄(襖紙の下方に模様が入っているもの)をデザインしたい」という思いもお聞かせいただきました。

コンピューターで作成したデザインは版下を経由して製版されます。菊池襖紙工場さんでは様々な印刷方式を使い分けておられるとのことで、したがって様々な版を用いて印刷を行うこととなりますが、写真はその中でもゴム版と呼ばれるものになります。これを手で彫っているところを拝見しましたが、それを目の前にしてもなお、版下と全く同じ形に、複数回、さらにそれを手で彫るというのは信じがたいものであります。

印刷工程の見学

写真に写っているのが、菊池襖紙工場さんが持つ中心的な印刷設備群です。先ほどのゴム版は、円筒状の管に巻き付けられ、回転しながらスタンプするような形で印刷を行います。このスタンプの際、ゴム版はわずかに変形することになりますが、それを加味した版の押し付け具合の調整、またインクをどの程度つけるのかという調整などは、すべて手で合わせているとのことで、これもまた舌を巻く技術であります。

菊池襖紙工場さんでは、有版印刷に限らず、インクジェット印刷(家庭用プリンターと同様の方式での印刷)も新しい事業として行っているということで、見学の日はアニメのキャラクターを襖紙に印刷しているところでした。東大襖クラブもこのような襖紙を中心に張るような時代が来るのでしょうか……?

有版印刷で刷られた襖紙は非常に長い巻物のようにまとめられており、最後に裁断する必要があります。裁断と同時に(つまりかなりのスピードで)目視による検品を済ませ、一定枚数ごとに写真のようにまとめられ、出荷される姿となります。これだけの枚数があれば東大襖クラブは一体何年間活動ができるのでしょうか……?

砂子細工体験

さて、襖紙に(金や銀の)箔を施して装飾する伝統技法を「砂子細工」と呼びますが、菊池襖紙工場さんは、その砂子細工をはじめとする伝統技法を取り扱う専門の部署「伝統工芸室」を設置されています。職人個人ではなく(菊池襖紙工場のような)会社が伝統技能を取り扱う意義も語っておられました。さて今回はその伝統工芸室にて、砂子細工の体験をさせていただきました。筆者などは箔の配置に苦悩してしまいましたが、出来上がったものを見るとやはり砂子は美しいと思うものであります。

最後に

普段の東大襖クラブは、襖紙はすでにあるものとして、見本帳をお客様に提示し、またお選びいただいた紙を張っております。今回は、いつもそのように相対している襖紙、とりわけ襖紙の柄について、その変遷、受け継がれているもの、そして将来の展望を垣間見る貴重な機会をいただきました。今後の東大襖クラブの活動に奥行きを持たせることができるよう、そのきっかけにしていきたいと考えます。